2018/08/23 20:36

最近、フェッティシュ/ボンデージ系イベントがクラブなどで行われたり、また盛り上がっている模様。
こうしたシーンの第一波は1980年代後半だった。日本では〈AZZLO〉というショップが海外からコスチュームやギア、雑誌を輸入販売していて、なんとなく通っているうちに仲良くなって、雑誌『ぴあ』の依頼で取材もさせてもらったり、クラブ・イベントに行ったりしていた。
そう、クラブ・カルチャーと連動していたから面白かった。

ヴィンテージ・ヌードを集めて本にして売っていたデザイナーの大類信さんを知っている人も多いと思うけれど、彼と一緒にアメリカにフェッティシュ/ボンデージ雑誌の仕入れ旅行に行くことになった。

大類さんは、僕が『papier colle』を創刊したときに、すでに『Sale 2』を刊行していたので「交換広告」を申し入れて仲良くなっていた。
「長澤くん、英語喋れる?」「ちょっと。大類さんは?」「うん。ブロークンで」「一緒にアメリカに仕入れに行かない?」「面白そうですね!」
てな感じでロスやニューヨークに行ったのだが、当時の大類さんは、ブロークンどころかほとんど「プリーズ」しか喋らなかった!笑。

でも、商取引はできてしまうのだから独特の才があった。のちにはフランス人の美女と恋愛して移住してしまうし.....
僕たちは〈スパルタカス〉社や〈LDL〉社の書庫にまで行ってバックナンバーを探って買い漁った。大類さんは自分の〈Fiction Inc.〉で売るため。僕は『papier colle』のサブ特集でやるため。刊行が大幅に遅れて、結局やらなかったけれど。

段ボール3箱を日本に送付したら税関で引っかかった。
フェチ系なので交合写真とかはないけれど性器がわかる、陰毛が見えるとかで、「廃棄を承諾する、もしくは自分で修正するか選択を」という旨の書類が届いた。
この、自分で修正、というのがなんのことかわからず税関に出向いた。
まるで、映画『未来世紀ブラジル』に出てきそうな殺風景で小さな部屋に係官と一緒に入ると、そこにはスチール棚とスチール机。
係官が押収した雑誌類を棚から取り出す。付箋がびっしり。

机の上にはマジック・ペンと紙ヤスリが3種類。粗い・中・細かいの違い。それで陰部を消せという。
マジック・ペンで消すのはイヤだったので、紙ヤスリはどれを使えば? と訊くと「好きなのを使ってください」。
で、付箋が貼ってあるページをズーッと殺風景な部屋で消してゆく。
やっと作業が終わって帰り際、係官に「そういえば押収されたビデオはどうなったんですか?」と訊くと、そちらはすべて処分したとのこと。
「ビデオは全部、チェックした上で廃棄ですか?」と訊いたら「はい、全部観ます」。
「けっこう楽しい仕事じゃないですか!」と言うと「いや、毎日はツライですよ」と。

そのときは係官の心理はわからなかったけれど、それから30年近くのち『ポルノ・ムービーの映像美学』という本を書くのに3年間、毎日、欧米のポルノ映画を見続けたとき、そのツラさは痛いほどわかった。
快楽には苦痛がつきものだ。。。