2022/06/18 07:00

この10日間ほど1920年代のドイツ映画ばかり観ていた。
そのことはまた書くつもりだけれど、映画ばかり観ていても自分が映画史上最も好きな3本の映画は不動だな、といつも思う。
1番はフィリップ・ド・ブロカの『まぼろしの市街戦』(66)、2番目はベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』(70)、3番目はカレル・ゼマンの『ほら男爵の冒険』(61)だ。

この3本はまだビデオデッキが発売される前の二十歳前後の頃、8mmカメラでTV放映時にどれも3分ほどTV画面を撮影した。
その3分を何回も何回も、8mmフィルム映写機で見直した。
およそ僕の10代とはジャン・コクトーの小説と、このあたりの映画だったのだ。

その『暗殺の森』で素晴らしく恰好良く、そして惨めな役を演じたジャン=ルイ・トランティニャンが亡くなった。享年91歳。
『暗殺の森』最初に観たのは1974年3月18日と日記にある。17歳。
当時、僕は1930年代の服装に憧れて自分でニッカーボッカーズを縫って作ったりしていた。
『暗殺の森』はスタイルとしても大好きだったのだ。
その後、トランティニャンが出ているものは何でも観た。
若い頃の『激しい季節』(59)がとても良かった。『女性上位時代』(68)はどちらかというとカトリーヌ・スパーク目当てかな。

『暗殺の森』のあとだと断然『離愁』(73)だ。
ナチ占領下のフランスで、レジスタンス側の女(ロミー・シュナイダー)と列車での移動のうちに恋仲になってしまう平凡な一市民をトランティニャンが演じた。
ラストシーン、ゲシュタポの追求の前に最初はシラをきるトランティニャンだが、ロミーへの愛を貫くシーンは泣いた。
僕が映画館で泣いたのはこれが最初で最後だ。
美しいものに涙することはあっても「物語」で泣くことはほとんどない。
でもピエール・グラニエ=ドフェールのこの作品は「物語」で泣いた。1976年4月27日のこと。

トランティニャンはじつに良い映画にたくさん出たよね。
『フリック・ストーリー』(75)もノワールものの傑作だけれど、冷酷なギャング役は、あまりトランティニャン向きではなかった。どうしても彼はあまり冷酷には見えない。
そう思い返すとトランティニャンの最高の作品はやはり『暗殺の森』だったように思う。
あんな映像はもう誰も撮れない。あんな編集は当のベルトルッチ本人でさえその後できてない。
ドミニク・サンダも胸が苦しくなるくらい美しかった。17歳当時の僕には。

人生には、そういうすべてが良い時期に結晶するときがある。ベルトルッチ、トランティニャン、サンダと。
たぶん一度きりの結晶が。