2022/07/08 05:19

ジェームズ・カーンが亡くなった。
出演した映画はアクションものが多かったし、ほとんど興味を持ったこともなかった。
でも1969年にフランシス=フォード・コッポラが低予算でつくった『雨のなかの女』を観て、大きく印象が変わった。
正直なところコッポラ作品もあまり興味がないのだが、これはとても良かった。

主人公の主婦シャーリー・ナイトがある日、突然、置き手紙を残してクルマで家を出る。
途中、ヒッチハイクをしていたジェームズ・カーンを拾って乗せる。彼は大学でフットボールをやっていたという。
アイビーリーガーの学生のようなカーンが他の映画とまったく違うイメージで吃驚する。

ナイトはモーテルで逞しい体つきのカーンを誘うのだが、彼女がその前に念入りに化粧するところが見物だった。
ところが彼は勃起しない。フットボール試合での事故で脳に損傷を受けたことが明かになっていく。

二人はずっとずっとクルマで彷徨する。70年代に盛んになるロード・ムービーの典型のような映画だ。
居場所を探して彷徨する、というのは当時のアメリカの若者たちの心象風景だったのだから。

ある日、カーンはナイトに“雨族”の話をする。
彼らは皆、雨でできていて、泣くと突然水になり消えてしまうというのだ。
この映画のタイトル「The Rain People」はそこから来ている。

事件も起こる。そして最後は...ほとんどのロード・ムービーがそうであるように悲劇的に終わる。
そうでないと彷徨が止まらないのだ。
ロード・ムービーの宿命は、映画として成り立たせるために「死」が用意されることだ。

カーンがじつに良かった。
ニコニコと明るい彼だが、ナイトもずっと一緒にいるとどこかヘンだと気づいていく。
事故が彼の知的能力にも損傷を与えていた。それゆえどんな辛い状況でもカーンは無垢に笑い続ける。

他の映画では、想像できないようなキャラクターだった。別人と言えるくらい。
これはフランシス=フォード・コッポラの最高傑作だと思う。「ゴッドファザー」や「地獄の黙示録」ではなく。
そしてジェームズ・カーンが最も記憶に残った作品だった。