2022/08/28 19:36

古書店業をやりながら、ふと思う。古本を扱いながら「潔癖症」って致命的なんじゃないか、と。
そう、汚い本がかなり苦手なのだ。
10代の頃から神保町に通って古書を買っていたのだから、もともと古書好き。
ことさら本を大切に扱ってきたわけでもない。
デザイン資料として買った本などは、けっこう見て傷めてしまったものも多い。
使って傷んで「古本」になっていく。なんとなく昔は「そういうものだ」と思っていられたのだ。

ところが古書店を始めてみると、やはり傷みのある本は価格を安くしないと売れない。
そんな経験からここ数年でかなり本を大切にするようになってしまった。
本を大切にすることと比例して、汚い本が気になる度合いが高まった。
なので、仕入れるとまず破れがあれば裏からテープ補修し、その後マイペットをティッシュに吹きかけて念入りに清掃する。
これは儀式のようなもの。少しでもきれいになると気持ちいいものだ。
というか見た目さほど汚く見えなくともがっつりとティッシュに汚れが付く本も多い。
譲ってくれた人は清潔そうだったりするのに...

この清掃が終わると、石鹸でよく手を洗わないと気が済まない。
ま、マイペットが強力洗剤だから洗ったほうが良いのは当たり前かもしれないけれど。


でも、手を洗いながらふとディカプリオ主演の映画『アビエイター』(2004)を思い起こすのだ。
アメリカの大実業家ハワード・ヒューズを描いた物語。
ヒューズは飛行機乗りだったのが好きだし、彼が監督した映画も大好きだった。
『ならず者』(43)はジェーン・ラッセルばかりが話題になるけれど、ビリー・ザ・キッド物映画としてとても優れていた。
初期の作品『地獄の天使』(30)も大傑作だったと思う。
そのヒューズは『アビエイター』で描かれるとおり病的な潔癖症で、手の皮膚が擦り切れて血が出るまで洗ってしまったという。
もちろんそこまで酷くないけれど、ときどき手洗いの頻度が過ぎるような気もするのだ。
歯医者にでもなったかのような気分にもなる。


本の傷みも昔よりずっと気になるようになった。ダストカバーの上下とか少しめくれ気味の古本も多いが、そうするとビニールのカバーを付ける。
こうするとずっと見た目は良くなるし、おそらくこれ以上は本も傷まない。
でも、薄利な商売をしながら厚手のビニールの経費かけて手間もかけていると、ほんとうにこれでいいのかなぁと思ったりする。
購入した人が気持ちよいのが一番、と自分に言い聞かせているのだけれど。

だから扱っているのは古本ばかりなのに、なんとなく小ぎれいに見える本も多い。
本棚もきれいだ。
そうすると街のあまり売れていなそうな小さな古書店が気になる。
あー、これじゃ売れないよね、とか。もっと本の手入れしないと...とか。
まぁ、他所のことを考える前にmondo modernを継続していけるかどうかのほうが重要でしょうが。

というわけでmondo modernであまり状態のよろしくない本を購入された方もいらっしゃると思いますが、でも清掃・消毒はきっちりやっていて、できる限り良い状態にして出品しているのです。

ヒューズは晩年、ラスベガスのホテル〈デザート・イン〉を買い取って、最上階のスイートルームに籠もって外界との接触を断ってしまったけれど、こちらはマンションの極小の部屋で事務所運営。
潔癖症が過ぎても伝説にはならないので、これ以上進行しないことを願ってます。