2023/01/19 19:58

以前、ミュージシャンの小坂忠さんが亡くなったときにこちらのブログに、その思い出を書いた。
旧ジョンソン基地(現・入間基地)周辺に米兵用につくられたいわゆる〝ハウス〟に小坂さんは住んでいたが、僕の父はこのジョンソン基地に勤務していた。
だからこのあたりは中学生の頃からの遊び場でもあったし、親近感もあった。

細野晴臣もまた〝ハウス〟に住んでいた。
中学生のとき、市営プールで彼らの姿をよく見たことは以前のブログに書いた。
はっぴいえんどの最初のアルバム、1970年のいわゆる「ゆでめん」も、のちに友人が買ってお金のなかった僕はそれを借りてオープンリールのテープレコーダーに録音し、よく聴いていた。
正直、当時主流のフォーク・ソングが苦手で、はっぴいえんどはじつにセンスよく思えたのだ。
そんな思い出のある僕に、サエキけんぞうさんと篠原章さんの共著『はっぴいえんどの原像』の装丁・造本の依頼が来た。
サエキさんには以前、拙著『ポルノ・ムービーの映像美学』の帯文も書いていただいたことがあるし、サエキさんが獨協大学で特別講義をやっていたときは、何回か招かれて60年代カルチャーについて講義したこともある。

しかもカバー周りのデザイン(いわゆる装丁)だけでなく、本文の組み版まですべて。
作業としては大変になるけれど、文章に入り込むにはこっちのほうがずっと楽しい。
本の内容がつまらなければ機械的に作業するだけだが、もちろん今回はそうはならなかった。

原稿をインデザインというDTPソフトを使って本文構成していくのだが、「流し込み」作業をしながら、よく読んだ。
最初の感想は、サエキさんと篠原さんの文体がまったく違うやん!笑
ということ。
サエキさんはよく調べたデータを、いわば感性で文章にしていく。
篠原さんはペダンチックなまでに知識を書き連ねる。
正直、最初は「Wikiもある時代なのだから、ここまでマニアックに書かなくてもいいんじゃないの」くらいに思ったのだ。

でも細かな作業をしつつ、ついつい読み込んでいくと、これがどんどんハマってしまった。
白眉はサエキさんが鞄にカセット・テープレコーダーを忍ばせて行った1973年のはっぴいえんど・ラストコンサートの紙上再現。
こんなのここでしか読めないでしょう! じつに楽しい。

僕も昔、ブライアン・フェリーのコンサートに8mmフィルムカメラを持ち込んだことがあった。
検査をすり抜けるのが難しかったが、場内で撮影するのはもっと難しかった。

篠原さんによる「ゆでめんリストから読み解くはっぴいえんどの世界観」も、もうひとつの白眉。
ペダントリーの極みのようだが、じつに適切。
篠原さんによる日本における米国カルチャー的なものの源流を記した2〜3章もとても面白い。
僕のデザインはともあれ、「この本は売れる!」と思った。
サエキさんにも篠原さんにも、それは伝えた。
なので僕も宣伝してちょっとはお手伝いしないといけないのだ。
編集の野口さんにもいろいろお気遣いいただいたし。

デザインについて少しだけ書くと、1960年代末から70年代初頭の時代へのノスタルジーを感じさせるようなものを心がけた。
色味はそれで決まった。都電の絵柄は細野さんや松本さんが語る彼らの少年期の原風景に触発されたもの。
表紙と見返しを糊付けしない洒落たものにしています。

仕上がって、本が届くころには自分のデザインを見すぎて飽きていることが多いが、この本はもう一度、きちんと読み直すという愉しみが待っていた。
こう書いている今日も、昼間、公園のベンチでしばしこの本を読んでいたのです。

★2023年1月20日発売。リットーミュージック刊。