2024/06/27 02:36

ノーマン・パーキンソンは1930年代から80年代まで、
60年近くも第一線で活躍した写真家だ。
1941年までは『Harper's Bazaar』、その後は『Vogue』でファッションを撮り続けた。
流行が目まぐるしく変わるモードの世界でこれは稀有なことだった。

彼の写真は時代によって構図が大きく変わる。
この少女の写真は、戦後の1947年。
人物が重なり垂直に伸びる構図だ。

下は戦前の1936年の写真。
ダイナミズムを出すために対角線の構図が用いられている。
これはモダニズム美学によるものでもあり、例えばフリッツ・ラングの映画『スピオーネ』(28)では、対角線構図が頻繁に登場する。
それは〝不安〟の表現でもあったが、ラングはつねに時代を先取りしていたのだ。
1930年代後半、戦争の予兆が感じられ始めるとファッション・フォトでさえこの対角線の構図を多用するようになる。
パーキンソンは英軍のためにプロパガンダ写真も撮ったが、多くは対角線のダイナミックな構図だ。

次は1937年のファッション・フォト。戦争の足音が聞こえてくる時代の作品だ。
赤線を引いたので対角線構図がよくわかるはず。
まだアマチュア写真家だったジャック=アンリ・ラルティーグの写真構図を仔細に調べたことがあるのだが、
対角線の構図が頻出するのが、1938〜39年だった。
第二次世界大戦勃発とみごとに符合していた。
パーキンソンも同様。

次のコート姿は1938年、その下の水着写真は1939年。
ファッション・フォトも時代の不安とダイナミズムを反映する。
この1930年代後半からの対角線構図の流行を指摘したのは多木浩二さんだった。
80年代に『流行通信』に書いていた。

7枚目の英国紳士の写真は、1950年のパーキンソンの作品。
1枚目の写真と似た垂直の構図だ。
彼の戦後の写真にはダイナミックな対角線構図はほとんどなくなり、安定した垂直の構図となる。
........構図にも時代精神が潜む。