2024/07/05 23:09

フランス16世紀後半のフォンテーヌブロー派の絵画を見ているといくつかの特徴に気づく。
ひとつは「流行顔」。
このポッパイア・サビナは皇帝ネロの2番目の妻。
1570年に描かれたものだが、フォンテーヌブロー派の「流行顔」の祖型となった気がする。
きれいな卵型の顔。眉と目の間は開き気味。
ポッパイアの肖像が描かれた3年後の1573年にガブリエル・デストレ誕生。
1594年頃に描かれたバスタブに二人の裸の女性がいる有名な絵の右の女性がデストレ。

20代で初めてルーブル美術館に行ったとき、まずこの絵をめざした。
ポッパイアの顔の造型を継いでいるように思える。
本人に似ているかではなく、これは「流行顔」だったのではないか?
その数年後に描かれた下の絵のモデルもガブリエル・デストレといわれる。
さきの絵とはだいぶ顔が違う。
他の肖像画を見るとこちらのほうが実物に近かったのではないか?と想像する。
ようするにフォンテーヌブロー派の名前の知られない画家は、実物よりも「流行顔」を重んじたのではないか?
絵画に描かれる女性の顔に流行があったのは、世紀末のラファエル前派や象徴派が特徴的だ。
エラの張った顎のしっかりした顔が美人とされた。その手前の時代はふっくらとした丸顔が流行。
フォンテーヌブロー派からロココまでは卵型の顔が流行る。

赤の↓をつけた絵もデストレがモデルと言われる。
そしてフォンテーヌブロー派のもうひとつの特徴..
「つまむ」こと。
乳首をつまむのは「妊娠」の、指輪をつまむのは「結婚」のアレゴリーと言われる。
下の絵は眼鏡をつまんでいる。
そして薄衣と顔の向きは最初に掲載したポッパイアと似ている。
ポッパイアから26年後の作品だが...
ちなみに着衣版もある。
この着衣版は第二次世界大戦でナチがフランスを占領下においたときはヘルマン・ゲーリングの所蔵となっていた。
「つまむ」ことに戻ると、似たようなつまむ手先が描かれた作品がフォンテーヌブロー派にはいくつもある。
...同じテーマでのヴァリアント。

...親指と人指し指でつまんだときの「指の造型」がフォンテーヌブロー派では美学として流行したのではないか?
ということでフォンテーヌブロー派のつまむ指先の数々を最後に。
リンク先の『L'école de Fontaine Bleau』は決定本ともいうべき大型画集です。
ちなみにここに掲載した論考に近いことは本書に書かれているものではなく、筆者個人の論です。