2024/12/10 21:33

画家リー・クラズナーの存在を知ったのは1988年。

初めてニューヨークに旅行して、MoMAに行った。
運良くフランク・ステラの展覧会が開催されていて観覧し、帰り際、ミュージアム・ショップのポスターの柵を見ていた。
B全くらいのヨコイチのポスターを見た瞬間、指が止まった。
それがリー・クラズナーの作品だった。


どういう感情が湧き上がったのかよくわからないが、涙が出そうになった。
もともと抽象画が好きだが、そういう感情が興ったことはそれまでないし、それ以降もない。

彼女の名も作品も、それまでまったく知らなかった。日本に帰ってから猛然と調べた。
彼女は1930年代から絵を描き始め、のちにジャクソン・ポロックと結婚。
40年代末から50年代のアメリカ抽象表現主義運動の一翼を担った。


実物を初めて観たのは1996年、セゾン美術館で開催された「抽象表現主義展」。

さらに好きになり、自分の事務所の隣にあるワタリウム美術館のON SUNDAYSで分厚い作品集を買った。
とても高い本だった。

リー・クラズナーの作品は初期から晩年まで、悪いものがない。抽象は変化していくが、その変化のどれもが良い。
これほどまでの才能なのに、なぜ夫のポロックほどは有名にはならなかったのだろう?
女性だったからだろうか? 正直、ポロックはあまり才能なかったとずっと思っている。

2019-20年、フランクフルトで開催されたヨーロッパでは50年ぶりのリー・クラズナー回顧展

クラズナーの大きな本は、mondo modernで売った。
購入した女性は大学院でクラズナーを研究してきたそうだ。その本はいま海外で4万円を超える価格になってしまっている。

発送する前に、とくに好きな作品の写真を撮っておいた。
でも、やはり紙に印刷されたものが好きだ。
リー・クラズナーの本は少ないし、価格も高いのだが、偶然にもある古書店でとても安く売っているのを見つけてすぐに買った。
今度はもうmondo modernを閉店するまでは手放さないだろう。


世界中のアーティストで誰が一番好きか、といえば今でも迷わずリー・クラズナーと答える。
死ぬまで抽象を探求した姿勢も天晴れと思うのだ。
...こんな具象ばかりの時代になってしまうと特にね。

1984年、MoMAでの回顧展の風景